逮捕部屋

百の六。

 小学校の旧校舎を立て直すってことになって、プレハブに移ったっす。
 最後の日に、一般公開、したっすよ。えぇと、なんだったかな。建設当時、モダン建築の手法が取り入れられてたとかで、随分、建て替えにも反対があったようなとこだったっすけどね。
 その日に近所の友達と忍び込んだっすよ、五年生だったし。懐かしいというか、残念だったから。
 校庭でひと遊びして、生徒用の玄関開けてみたら、案外、開いたんすよ。嬉しくて、皆して、忍び込んだっす。
 いや、ほんとに、簡単に開いて。
 今思えば、あんなに簡単に開くわけないっすよ。重い扉で、授業で外に出ると戻るのに苦労したのを、あとで思い出したっすから。
 三階建てで、学年の小さい方か下の階だったっす。一年と、二年生が一階、三、四年生が二階、五、六年生が三階。だから、全部見てまわりたがったんすよ。一階の一番隅から、順番に教室廻ってったっす。何人だったかな、はじめは、えーっと…、三人で。
 そんないやな顔しないでくださいよ、聞きたいっていったの、そっちじゃないっすか。
 しょうごってのが、いたっすけどね。そう、辻向かいの。で、そいつと、たかあきっていう、商店街へ行く途中に美容院あるでしょう。そこの息子と。三人、うん、三人っす。
 しょうごが、言い出したっす。俺はあまり、気が乗らなくて。音楽室とか、多かったんで…いや、その日は、珍しくいなかったっすけどね。
 そっちの方が、不思議で。やっぱり前の日は皆さびしそうだったっすよ。理科準備室に、随分老年の先生とかいたっすけどね、その日は何故だか会わなかった。いたずらすきなじいさんだったっすけどね。人の実験邪魔するのが好きで、バーナーの火、消しては嬉しそうにしてたり。そんな人だったっす。
 あんまり誰もいなくて気持ち悪かったんで、一番怖がってたっすよ。散々馬鹿にもされたっす。
 けど、三階から、もうひとつ、屋上に上がる階段が一ヶ所だけあったっすけど。もう一箇所、ないはずの場所に増えてたっすよ。気付いたのは俺だけで。あんまり不気味だったから、上ろうって言うの、止めたっすけどね。
 大丈夫だから行こう、って言う奴が、いたっす。顔、思い出せない。ただ、いつもの四人組のうちの一人、くらい自然にそこにいて。そいつが言ったら、やっぱり大丈夫なのかって、安心しちゃって。つい、つられて上がっちゃったっす。
 気付いたら、授業、してたっすよ。今思うと、時間の感覚がなくて、見覚えのある先生だから全然気付かなかったっすけど、よく考えると理科準備室のおっさんとか、体育館にいた子供とか、そういうのばっかりに囲まれてたはずなんすけどね。
 楽しかったっすよ。五時間きちんと授業受けて、何事もなかったように、じゃあな、って皆で教室を出て。先生たちが、嬉しそうに見送ってくれて、まるで卒業式みたいだな、なんていいながら帰ったっす。
 四人で玄関まできたら、そいつが忘れ物したって言うっすよ。んじゃ、外で待ってるからな、って普通に玄関をでて。気付いたら、あたり真っ暗でしょう。
 慌てて振り返ったら、扉には鍵、かかってるし。怖くなって走って帰ったっすけど…やっぱり寝てたか…もっかい聞きたいっつっても、忘れたことにするっすよ。

<2003/04/15>