逮捕部屋
百の七。
夏実がリビングに顔を見せ、不思議そうに首をかしげて部屋に戻っていった。 ドアの方を見やり、美幸はテレビに目を戻した。丁度見ていた番組も終わり、テレビを消して自室に戻る。子機のランプで電話の回線がふさがっていないことを確かめると、パソコンを立ち上げてネットにつないだ。そろそろ回線も変えどきかと思うが、自宅で使う分にはほとんど不便がない。まだまだ高速化は進みそうだし、料金もおちつづけている。今デジタル回線に切り替えたところで、この先、何が起きるともわからない。再びアナログに戻せということになったらそれはそれで面倒な話だ。何より、公団の手続きの煩わしさと勤務時間の一致が、回線の高速化をさまたげていた。 ちょうど回線がつながったところで、ドアがノックされ、夏実が顔を出した。 「何?」 「電話、なったよね。」 「なってないわよ?」 あぁ、そう… 曖昧に頷いて、夏実は部屋を出て行く。 「つながるわけ、ないんだけど…」 ディスプレイに目を戻し、自動的に蓄積されていくデータを頭から順に追っていく。 テキストだけ抜き出したニュースサイトの記事を別ブラウザで眺めていると、前触れもなくドアが開いた。 「あのさぁ」 「電話なんか、なるわけないでしょ」 「子機、なったよ。とりそこねたから、見にきたんだけど…」 「え?」 自動巡回のプログラムはまだ終了する気配はない。 接続中を表すモデムの表示は、点滅を続けている。 「ずっと、使ってるんだけど…」 確かめるように、美幸が呟いた。 「…あのさ。」 それを見やり、しばらくの沈黙の後、夏実が言った。 「今日、こっち、泊まっていい?」 何故と聞くこともできず、美幸は黙って頷いた。 次の日から、リビングにあった電話機本体は美幸の部屋に置かれている。 <2003/04/15>