悔 恨 

 嬉しそうに見せられた雑誌の切り抜きに自分がいた。
「そんなことも、ありましたね」
 久しぶりに見た以前の仲間達。この時栄光と呼ばれていたものは思い出せないほどかすんでいた。
 よほどつまらなさそうな顔をしていたのか、目に見えてすねさせてしまったようで少し慌てた。
「いや、その、…」
 どう伝えたらわかってもらえるか。そんなことを思ってみたが、とっさに言葉は浮かばなかった。
「済んだこと、じゃ、ないですか」
 今度は不思議そうに自分を見上げてくる。人が言うほど感情が表に出ないわけではない。
「次のレースのことしか頭になかったんですよ。そういう顔してるでしょう」
 自分の言うままもう一度切り抜きに目を移し、おかしそうに小さく笑った。
「ほんとですね」
 一人だけ周囲に溶け込めていない。チームのジャケットは着ているが心ここにあらずという様子だ。
「決勝じゃなければ…いや、決勝ですね、これ…」
 横から覗きながら、苦笑いする。
「おかしいな」
 写真を受け取って、考え込む。この時、自分は何を思っていただろう。
 噴出すのを聞いて我に返った。
「ひどいな」
「次のレースのことを考えてたんですよ、きっと」
 笑いながら彼女は言ったが、何かが自分の中にひっかかっていた。
「…そうだったかな…」
 それが何かすぐに気付いたけれど忘れたことにした。
「そうですね。多分…そうだ」
 呟きながら切り抜きを返す。
「…あの…」
「はい」
 無意識に話題を継げないような空気にしていたのだろう。不安そうに自分を見上げる目に表情が緩む。
「あ、すみません。大丈夫ですよ」
 ほっとしたように再び雑誌の記事をに目を移すのを確かめると、ため息がもれた。
「そうそう、この時は…」
 自分を誤魔化すように思いついたことを口にしながら切り抜きを覗きこみ、かけられる言葉に相槌をうちながら曖昧な自分の記憶を埋めていく。

 あなたのことを忘れた訳ではなく。

 そんな言い訳をしてみてもその日のことはほとんど覚えていない。薄情者とののしる人ではなかったが、逃げることを許す人でもなかった。事実、誰よ りも負けることを許さなかった。
「機会があったら覗きに行きますか」
「いいんですか」
 無邪気に喜ぶのをみやりながら、そろそろ顔を出せるだろうと考えていた。許す許さないということではない。けれど、その後悔が自分の足を遠退かせていたのも確かだった。

<03/02/23>
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